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2020年05月07日(木)

豆知識

愛犬の困った行動に効く「Tタッチ」【2】過剰に興奮しやすい犬編

噛んだり、吠えたりといった攻撃的な行動や、神経質・怖がりというストレス過多な性格など、犬の行動問題はさまざまですよね。そんな行動問題の解決策の1つに「Tタッチ」というボディワークがあります。


前回の記事に引き続き、ホリスティックケア・カウンセラーであり、Tタッチのプラクティショナー資格を持ち活躍する中里真由美さんにTタッチの極意を教えていただきました。

Tタッチの基本知識

Tタッチって何?

Tタッチは、動物たちの感情、精神、体のバランスを整えるための技法として、1983年にアメリカで誕生しました。手に負えない気性の荒い馬に、「円を描くように皮膚を動かすタッチ」を行ったところ、馬の気持ちが落ち着き、リラックスして従順な態度を示したことから、いろいろな動物に合わせて開発されました。

T タッチは、身体に非習慣的なタッチをすることにより、皮下組織から脳へ新しい知覚情報を伝達します。それにより、タッチした部分の細胞機能が目覚めます。また、副交感神経に働きかけ、リラックス、集中力、学習機能を高めます。

例えば、恐がり、攻撃的な犬は口のまわりやしっぽの付け根が緊張しています。感情面で問題がある場合には身体にも影響を与えるからです。逆に身体に問題がある場合には、感情にも影響を与えます。

T タッチによって新しい知覚情報を与えることで、緊張の強い部分がゆるみ、動物にとって自然体で楽にすごすことができる「ニュートラル」なポジションになります。こうして、感情、精神、体のバランスを整えることで犬が落ち着きと自信を得られ、学習能力と意欲が高まるのです。

基本は『円を描くタッチ』

T タッチにはさまざまな種類がありますが、多くは「円を描くタッチ」を含んでいます。

【方法】
自分の指、手、腕、肩全てをリラックスさせ、手のひらを優しく動物の体に乗せるように触れます。
この状態で、手で1 と1/4 の円を描きながら皮膚を動かします。身体の表面で手を滑らすというのではなく、皮膚自体を動かします。
時計の短針6 時の位置から始めて時計回りに再び6 時になるまで皮膚を押し動かし、そのまま8時か9 時のところまで続けます。一つの円を描き終わったら、優しく手を離し(もしくはずらして)別の位置で同じように1と1/4の円を描いて皮膚を動かします。

 

こんな時、こんなTタッチ ~過剰に興奮する~

感情の振れ幅が大きいわんこたちに

怯えや不安がすごく強い犬や、攻撃性が高い、過剰に興奮しやすいといったように、感情の振れ幅が大きい犬たちがいます。
私たちは、そんな犬の状態を見ると「どうして普通にしていられないの?」と思ってしまいがちですよね。


ここで、クイズです。
怯えていたり、不安そうにしていたり、攻撃性を示すなどの行動をとっている犬の体で、「普通」の状態と比べて違う部位はどこだと思いますか?
もちろん、小さく縮こまったり、ぷるぷる震えたり、自分を大きく見せようと背中の毛を逆立てたりという姿もあるとは思いますが、ここでは体の『パーツ』に目を向けてみましょう。

 

・「唸る・吠える」「口をつぐむ」?
・「足の間に巻き込む」「高く持ち上げて細かく振る」?
・「ぴんと立って前傾する」「ぎゅっと後ろに倒れる」?

 

多くの飼い主様は、そうした姿を目にした経験がおありなのではないでしょうか。
口の周り、尻尾の回り、耳の周りは感情が表れやすく、いつもと違う感じになっていることが観察しやすい場所です。
つまり、耳と口と尻尾は感情に直結していて、『口や耳、尻尾を「普通」の状態に保つことが出来ない変化』=『サイン』として、動物たちが「自分自身で平常心を保つことができなくなっている」ということを、私たちに伝えてくれているのだと受けとってみてください。

 

Tタッチでは、後ろに「ワーク」とつく手法がトリオで存在します。
耳周りにつかう「イヤーワーク」、口周りに使う「マウスワーク」、尻尾周りに使う「テールワーク」です。前回の記事で『口の使い方や感情を意識してもらうために、マウスワークやテールワーク、場合によってはイヤーワークがオススメです』とお話したのは、ここにつながるのです。

恐れや怯え、不安や興奮などさまざまな要因からくる感情により、きゅっと緊張している場所は「タッチ」だけでなくこれらのワークも使うことで、「そんなに緊張させなくても大丈夫だよ」と体から脳に伝え、自然体に戻すお手伝いができますよ。

 

コーギー2

他犬に対してアグレッシブな犬が、主にテールワークを行うことで、劇的にではありませんが、少しずつ変わっていった例をご紹介します。

 

その家庭には、すでに2歳のコーギーがおり、新たにもう1頭コーギーを迎えました。
二頭ははじめのうちこそ仲良くしていましたが、新入りが成長するにつれて折り合いが悪くなり、本気のけんかをするようになったため、家庭内別居をせざるを得なくなりました。その頃から、新入りのコーギーは他の犬に対しても攻撃的な反応を見せるようになり、それを止めようとした飼い主の方がやつあたり咬みされるという状態になっていたのです。

 

その犬は、他の犬を見ると視線がぎゅっと固まり、耳がぎゅっと引き寄せられて前傾し、尻尾は大きく持ち上げられて小刻みに揺れ、口元はいつでも「吠える」ことができるように緊張していました。それはまるで弓を引き絞り力を貯めているようであり、何かがきっかけで溜め込んだ感情が矢となり、一気に放たれる(キレる)という感じだったのです。下手に手を出すと「やつあたり咬み」がくるので、感情のコントロールのためにマウスワークやイヤーワークが効果的と分かっていても、そこには手を出したくない状態でした。

 

唯一、尻尾だけがなんとか触れる状態でした(幸いなことに、このコーギーは断尾されておらず、立派な尻尾がついていました)。
そこで、他犬が視界に入らない場所に退避し、興奮冷めやらず力が入っている尻尾を、本来の位置に根元からゆっくりと手で押し戻し、付け根付近に1と1/4の円のタッチを、また尻尾の骨一つ一つにも1と1/4の円のタッチを行いました。
冒頭にも述べたように、劇的な変化ではありませんでした。

 

ですが続けるうちに、他の犬を視界に捕らえてから感情が吹き荒れるまでの時間が長くなり、そのおかげで飼い主の方は対処する時間を持てるようになりました。また、対処がうまくいかずにキレさせてしまった場合も、落ち着きを取り戻すまでの時間が短くなっていきました。
他の犬を気にせずすれ違えるようになる、とまではいきませんでしたが、犬自身が自分の体の状態から自制心を持って行動を選択する、ということを私自身も学んだ例でした。
私たちが変われば犬が変わり、犬の姿勢が変われば犬自身が変わるという、Tタッチの理念を実感した例でもあります。

 

実は、この飼い主は私。2頭のコーギーは、今は亡き大切なパートナーたちです。

 

おうちで普段から取り入れて頂きたいTタッチ「イヤーワーク」

今回は『イヤーワーク』をご紹介します。

 

イヤーワークは守備範囲が広く、さまざまな目的で使えるタッチです
特に、お年寄りのわんこたちには循環の維持や自己治癒力のアップのために、過剰な怯えや不安・興奮など感情の触れ幅の大きなわんこたちには自制心を持って自分自身をニュートラルな状態に保つために役立ちます。

 

ここでは特に、「自己治癒力の増進」について触れたいと思います。
耳には、内臓に直結するたくさんのツボがあることは、ご存知の方も多いと思います。これは人間だけでなく動物たちも同じで、耳にアプローチすることで内臓に影響を与えるツボが刺激され、自然治癒力アップにつながるのだとイメージしていただければと思います。

 

全てのツボをしっかりと刺激するイメージを持って、少しずつ場所をずらしながら耳全体をまんべんなくスライドする「イヤースライド」を行ってみましょう。
力加減は、皆さんが思っているよりも優しいくらいがよいです。お花の花びらを指の腹で挟んで滑らせるように触れた(スライド)時に、ちぎれたり傷んだりすることのないくらいの力加減が目安です。優しい力加減ですが、指先に耳の皮膚を触れているという意識をもつこともコツのひとつです。

 

耳の付け根から1~2cmくらいの場所を頭側から優しく挟み、挟んだ指でノアズマーチを行うイメージで耳の先へとスライドし、耳の先1~2cm先の何もないところまで耳の先があるようなイメージで進みましょう。

 

次に、さっきスライドしたラインにかぶるかかぶらないかくらいの少しずらした場所を、同じようにスライドします。これを繰り返して耳全体をスライドしていきます。スライドだけでなく、小さく1と1/4の円のタッチを入れてもいいですよ。立ち耳の犬は、耳の付け根から耳先に向かって上に進むように行い、垂れ耳の犬は耳の付け根から耳先へと下に向かって進むようにします。耳の形にそって、耳が自然な位置にあるようにスライドしてください。ちなみに…我が家のコーギーは、大きな耳を両手の手のひらで包むように挟んでスライドされるのがお気に入りで、目がしょぼしょぼ、ねむねむになります。

*普段から耳周りを触らせてくれるパートナーに行ってください。耳周りを触れないわんちゃんには、イヤーワークは避けてくださいね。

 

さて、オールラウンダーとして活躍してくれるイヤーワークですが、Tタッチの中では唯一『こういうときには使ってはダメ』という条件があります。それは、最期の見送りをするときです。イヤーワークは自己治癒力アップに働きかけますので、もう旅立つ準備ができている時にイヤーワークをしてしまうと、逆効果になってなかなか旅立てなくなってしまうからです。

 

これは私の個人的な経験ですが、旅立ちのお見送りの時には、いつもよりもさらにゆっくりくらいのペースでノアズマーチを使うことが多かったです。旅立つ動物たちには安心感を、そして私からは「ありがとう」と「愛してるよ」を伝えられるように感じます。


さまざまなシーンで幅広く活躍してくれるTタッチの技術を、ぜひ生活の中で活用して、楽しいわんこライフ・にゃんこライフをお送りくださいませ!

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◆中里 真由美

ころん代表

Tタッチプラクティショナー(P2)
アドバンス・ホリスティックケア・カウンセラー
認定動物看護師
ペット東洋医学アドバイザー
メディカルハーブコーディネーター
動物系専門学校講師

人も動物もHAPPYにをテーマに、お互いに楽しく自然体で暮らすことができるよう人と動物をつなぐ活動を行っています。Tタッチプラクティショナーとして、パートナーとオーナーの暮らしをより楽しくするためのワークショップやプライベートセッションを行う傍ら、動物系専門学校で講師として将来の動物業界を担う人材の育成にも携わっています。

 

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